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教員経験による成長は、”高速サイクル”の環境が生んでいる

教育の視点
Photo by National Cancer Institute on Unsplash

教員の仕事は、ブラック労働である

これを見聞きして、違うと異を唱える方は、かなり少なくなったのではないだろうか。TVやネットニュースにおける取り扱われ方やその喧伝は、多くの人が目にし受け入れている状況であると推測される。

確かに、勤務時間の長さ・保護者対応・休日にも及ぶ事務作業や部活動など、その内実が紹介された番組や記事が一時期流行ったため、認知されている状況がある。現実に、経験談からそうであると言える。

しかし、この記事においては、そこに着目せず別の見方を提示したい。

それは

学校という現場ほど、短時間で”教員”としてだけでなく、”仕事をする”ということに対して、学び・成長できる場はないということである。

 そう考えるきっかけは、昨今の若者のはたらく事情

現在、コロナ禍であることを考慮しても、あまりにも自己都合で仕事をしている人が多いように思える。私の今の職場では見受けられないが、SNS上の話題やニュース等の記事を目にする機会が増えている。

上記の参考リンク(データは少々古いですが)以外にも、記事は存在していますが割愛します。

このようなことから、現代の若者は、ネット上の情報にすぐにアクセスし情報収集する世代であり、その情報を元にして自身の身の振るまいを考える傾向にあるのでは、と私は考えています。(ただ、知りたいと思った情報しかアクセスしない点があるのも事実)

ゆえに、仕事を始めても、何かあれば自分を変えるではなく環境を変える、つまり転職するといった考えに行き着きやすい傾向にあると言えます。(上記リンク内にもその記述あり)

しかし、転職が新卒の就職活動の時と同様の考えでうまくいかないことは容易に想像できます。それはここで記述する内容とはずれるので、他にゆずるとして、教員という職を避ける傾向が非常に強い今、教員としてはたらくことによる利点を見直すきっかけとしていただきたい。

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教員が短時間で成長できるという根拠

結論から述べますと、【新卒であろうがなかろうが、担任業務・教科担当業務・校内分掌含めた雑務業務など、責任を負ってはたらく環境が必ず与えられる】という点にあります。

要するに、自身が行動しなければ、学校として成立しない業務を任されることになるのです。一般的な就職においては、多くの場合は最初は仕事を覚えるため、先輩に付いて回ったり、業務全般の中からごく一部分の仕事だけを回されたり、ただ見学をするだけ、実践とは程遠い研修で済まされたりなど、自身では思考を巡らせず、与えられたことを行う日々から始まる場合が多いのではないでしょうか。

一方、教員の現場では、着任の一週間後や数日後に「じゃ、現場で仕事を覚えて頑張って」と、自ら考え、行動しなければ何も動き出さない状況で始まっていく。

学校という現場ではこれが普通であることがほとんどだと経験から言えます。

ゆえに、担当を割り振られた段階(学年や担任の有無、部活動の有無、校務分掌の中身など)で、短時間ですべきことを把握し、より良く実行していくために情報収集をし、必要な準備をし、期限に間に合うように実行する。

着任時に、できるかどうかは別にして、これが求められるのです。

何をいつまでにといった指示はある程度、学年主任などからありますが、主任は主任で仕事があり、多く時間を割いてくれるわけではありません。

入学式や始業式の日によっても異なりますが、着任が4/1であり、おおよそ10日以内に準備・実行します。土日をはさむので、実質の活動は正味一週間程度となる。この状況、文句を言っている暇があるくらいなら、どんどん把握・実行を繰り返す方があとあと泣きを見ないで済みます。自分以外の教員たちは一年でも経験があれば、当たり前のようにこの時期、どんどん行動していきます。

以下に、おおよそ考えることや実行することを羅列してみます。(実際に私が、最初に経験したことを基に記述しているので、どの教員にも当てはまるとは限らないことをご了承ください)

●全体会議や学年会議など、各種会議

参加だけでも時間は多く取られる。しかし、そこで気を抜いていると、すべきことが明確にならないので話を聞きながら、自分がすべきことをピックアップし、何を誰に聞いてどう解決していくかと思考を巡らせていかないといけない。この部分を具体化すると、学校全体としての教育方針を理解しながら、それに基づきつつも各学年としてどう指導を行っていくか、さらに自身のクラスはどのように学級経営をしていくか。どのような生徒を受け持ち、どのような特徴(アレルギーの有無、行動の特性、保護者の対応状況など)が前の学年までに把握されているか。これを元に、どの生徒を気を付けて見ていく必要があるか(特殊な生徒は、学年で共有していきます)。また、気を付けるべき生徒が自身のクラスに入ることになれば、個人での把握と情報量は増えていきます。

●学年全体として必要な準備(同僚と共同作業)

下駄箱や教室の机椅子の破損状況把握と交換、そこに貼る生徒氏名シールの作成、各種名簿、配布物の作成・印刷・分類などなど。学年専用部屋があったので、その部屋の掃除・片付け・使いやすいように配置換えなど。

●学級経営において必要な部分(個人で行う物や同僚と内容を同じにしたりなどいろいろ)

共有された・把握した情報を基にして、学級経営のため、何を重要視し、何を目標とさせるか。それらに合わせた、教室掲示の工夫はどうあると良いか。教室掲示するための、当番表や宿題などの提出場所やその入れ物。管理用に内容を変えた名簿の作成。学級だよりの作成(毎日作る教員もいましたが、私は週一がやっとでした)。学級開き(最初のホームルーム)で、何をどのように話をするか、生徒に伝えたい内容を伝わるように工夫。

●授業を行うに当たり、必要なこと(完全個人)

授業を実施していく上で必要な、年間指導計画の作成(一から作ることは最初は稀)。授業進度について、どこを重点化し、どこを軽量化すると良いかを、ベテランに聞いてある程度の把握。

授業開き(最初の授業)で、どのように進めていくかを説明するための資料作り。その後、授業を実際に行うに当たっての板書計画の作成。授業プリントの作成(私は、授業プリントで生徒の板書する量を減らし、話し合いなど交流する授業にしたかったので、毎回授業プリントを作成していました)。

 

以上、

思い出しながら書いてみました。まだまだ他にもあったような気もしますが、とにかくやることが多いということが伝われば良いです。

ざっくりと紹介しましたが、一人で行うものもあれば、同僚と手分けして行うものもあるので、必然的にコミュニケーションを取る必要も出てきます。そこで、人間関係や協力関係を構築していきます。業務内容の難易度はさておきですが、裁量を与えられ、把握・理解・判断・行動していく環境に最初から置かれるということです。

限られた時間の中で、ある程度優先順位をつけて行ったり、協力して行動する時間をすり合わせて実行したりと止まる暇もなく動き続けます。勤務時間は、必然的に長くなります。ですが、[準備が終わらない=一年を開始していけないとなる]ので、必死になって活動します。そして、この時期を経験するからこそ、その後の一年を軌道に乗せていけるのです。

ゆえに、時間管理スキルと業務遂行スキルが確実に身に付きます。身に付かなければ、一年を乗り切れなくなりますし、何年もやっていけなくなります。

 この環境をどう捉えるか

以上に挙げたことについて、考え方はさまざまあるとは思います。やっぱり、ブラックだと再認識する方もあるでしょう。最初からこの内容ですし、業務量は学校が始まれば、変わらないどころか増えていきます。

ですが、ぜひ好意的に見て、どのようなことがあるから多量な業務をこなしていけるのかと考えていただきたい。

多くの事柄について、裁量権を与えれられ、判断し実行できる環境に置かれ、実行したことは上司・同僚・生徒や保護者からフィードバックは直に受けるし、その改善もする必要が出てくる。そのサイクルによって、自身の成長はもちろんありますし、関わっている生徒も成長させることができる。

これほど、自身の判断・行動と結果を元にして高速でサイクルを回し、成長に向っていける現場はないのではと考えます。

無論、教員免許を持っている・採用試験に合格する、もしくは臨時職員として採用されるという大きな条件があります。その条件を揃えると考えたら、無理だろうと思われるかもしれません。ですが、就職活動として、会社説明会・合同説明会に参加、エントリーシートやリクルートサイトへの登録、企業とのメール等メッセージのやりとり、採用に至るまでに応募書類の準備や提出。これらを複数社行う労力と時間を、教員採用試験に向けて使うかどうかというだけではないでしょうか(大学等在学中に、免許取得のために通常より多く、授業や実習など教職課程で労力と時間はかける必要があるので、完全に等価ではないです)。

教職を離れても、培った時間管理スキルや業務遂行スキルは大いに役立つ

以上、述べてきた事柄は、教員として生活をしていく上で、必要なスキルです。

これらがなくともやってはいけますが、勤務時間が長くなり、自分の時間はどんどん失われていきます。もし、その環境下で体調に良くない変化が現れ、日常業務に支障が出たとすると、生徒・保護者からの信頼が失われてしまいます。

日々多忙な中、多くの業務をこなすことで身に付く”時間管理スキル”、”業務遂行スキル”。

これは、教職を離れたとしても間違いなく、仕事をこなす上で大いに役立ちます。

具体的に役立てるポイントとスキルをご紹介します。

●限られた時間内で、仕事を終わらせる

どの学校に勤めているかで変わりますが、いわゆる放課後が事務仕事や授業準備を行う時間です。すでに夕方以降です。帰宅し、休息する時間を考えれば、使える時間はわずかです。(一切気にせず、仕事が終わるまで行う方も中にはいますが)

この時間内で、如何に効率よく仕事をするかは、日常を回す上で重要です。ToDoリストを作成して実行したり、目標とかける時間を設定して行います。特に学級運営・授業運営上必要な準備物(主に配布物の印刷)は、日々行います。例えば、印刷物を印刷している間に、簡単な仕事を1,2個終わらせる。といった具合に、効率よく行っていくように自然となっていきます。

●年間の予定を確認して、いつまでに何を準備するか、どこに協力を頼むか把握

常に、目の前にある業務だけでなく、中・長期的に行事を確認して、準備を開始するクセがつきます。実施する行事等に対して、知識が少なければ、何を準備するか、誰が経験者で資料を持っているかと学年主任や教頭などに相談します。また、必要な購入物があれば、いつ納品してもらえるかを確認して、業者に頼むこともします。

未来に起こる仕事を想定して、下準備をするような考えが身に付いていきます。

●観察・気づく力が身に付く
常に生徒の変化に目を配るようにもなります。元々、要注意と共有されていた生徒はもちろん、そうでない生徒も、友人や成績、家庭環境によってその表情や言動が変化します。それを見逃さず、声をかけて状況を探って、解決までいかなくとも、気持ちを軽くする方策を取る必要が出てきます。
そのように生徒をサポートするため、自然と見る力は養われていきます。
●事務作業効率を上げるためのスキル習得
名簿管理から成績管理と、何かとパソコンでwordやexcelを用いて、データ管理や処理を行います。その際に、ただの打ち込み作業を繰り返し、アプリケーションの性能を無駄にするのは効率が悪くなり、勤務時間の超過に拍車がかかります。
時短できるものは、時短する。
簡単なexcelでの関数を用いた処理は、大変重要です。excel以外にも、word(一太郎のところも、まだあったりします)での文書作成、検索をする際もマウスクリックで移動や目的の作業をすることも効率化するために、ショートカットキーも覚えていきます。
それらを覚える・習得するには、少々時間はかかりますが、それはトータルの時間短縮を考えれば、必要な投資です。
●保護者対応力
一般的には、教育相談や三者面談などで会って生徒のことを話し合う程度ですが、昨今は保護者が学校に要望を出してきたり、逆に不登校であるがゆえにこちらから積極的に保護者へ連絡をする機会が多くなっています。
その中で、生徒だけでなく保護者の考えや状態によって、どう話をするか。これも日々の業務になってきます。保護者も、仕事と家庭における生徒の状況、自身の状況から様々に変わります。安定して対応できる方もあれば、一つ間違えるとモンスターになってしまう方もいます。それを勘案しながら、どう対応するか。これは一人では抱えず、学年等で共有して行うこともしばしばです。担任となったからには、ほとんどの場合、自身で対応する必要があるので、いろいろな保護者と関わる中でその対応力は向上します。
以上、学校における状況下で内容を記述しましたが、それぞれについて違う業種であっても、対象をどの仕事、人に当てはめるかが異なるだけで、行う内容は大きな差はないのではと私は考えます。よって、教員を経験する中で培われた力は、他の業種に移ったとしても、すべてとは言いませんが活用できます。

おわりに

一昔前、教員は他の仕事では全く使えないと言われていました。今でも一部ではそう考える方もいらっしゃるかもしれません。ですが、昨今の教員の仕事事情は、昔のものとは異なるものになっています。
私個人の見解ですが、現代の教員が行っている仕事をこなせる人は、かなり少なくなってきているのではないでしょうか。むしろ特殊性が進み、免許を取得したからできるという職業ではないかもしれない。ゆえに、若者の教員という仕事への魅力度が下がっている(報道の仕方で印象が偏っている感はありますが)という見方もできます。
ただ、その大変であるという状況は、決して疲弊だけが待っているわけではありません。この記事で紹介した、スキルが身に付くということはあくまでも副産物です。
教員の主たるは、未来の日本を担う若者の育成です。知識の習得の仕方、その活用の仕方、他者を認め、協働する力、組織での行動の仕方、自ら未来を切り開く力を身に付けさせることができる、貴い職業です。
その思いがあればこそ、児童・生徒のために、日々努力し、寄り添い、共に成長する。学年終わりや卒業式で、生徒の成長した姿を見て、本気で涙を流せる。
そこに至る日々の中で、できるようになったこと、できるようにしたことが、多様な場面で活用できるスキルになると確信しています。
ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

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